企業や個人事業主が取引を行う場合、必ず何らかの契約が存在しています。そのため、企業間などでの取引においては、契約書を作成するのが通常ですが、せっかく契約書を作成して契約を締結したにもかかわらず、契約上のトラブルが発生してしまうことがあります。
これは、その契約書がその取引にマッチしていない、事前にリスク分析が十分できていない、契約条項が不明確などいろいろな原因が考えられますが、事前に契約書をしっかりと準備しておくことで、契約上のトラブルを未然に防止できることが多いことも事実です。
以下では、契約書の意義や重要性、契約書を作成・締結する場合のポイント、契約書の一般的な内容などを解説し、当事務所における契約書作成・リーガルチェックのご案内をいたします。
契約書作成の必要性・重要性
契約(書)とは
「契約」とは、当事者双方の意思表示が合致することで成立する約束をいいます。
例えば、コンビニなどで「お弁当を500円で売る」、「そのお弁当を500円で買う」というコンビニ(売主)と消費者(買主)の意思表示が合致することで売買契約が成立します。
他にも通勤・通学で電車に乗る場合、鉄道会社と乗客との間で旅客運送契約が成立しています。また、ビジネスにおいても、不動産会社が建設業者に工事を発注する場合は請負契約、会社が弁護士に事件処理を依頼する場合は委任契約が成立します。このように、個人・法人を問わず、日常生活は多くの契約で成り立っており、契約なくしては生活することができないともいえます。
そして、「契約書」とは、当事者双方の意思表示が合致していることを証明する書類をいいます。先のコンビニの例でいえば、お弁当の売買契約は成立していますが、契約書などは作成しないのが通常です。
契約は口頭でも成立しますし、いちいち契約書を作ることは非現実的だからです。一方で、先の不動産会社が建設業者に工事を発注する例でいえば、契約書が作成されることが多いといえます。
契約書の意義・必要性・重要性
では、なぜ工事の請負契約では契約書が作成されることが多いのでしょうか。
その理由は、大きく3つあります。
① 当事者間の合意内容を確認するため
どのような工事を、いつからいつまで行い、もし不具合があった場合に誰がどう処理するのか、工事代金はいくらかなどについて「契約書」を作成して細かく取り決めておかないと後日トラブルとなる可能性がありますし、工事代金が多額な場合は不測の損害が生じる可能性があります。
口約束だけでは合意内容が不明確であり、「言った、言わない」などのトラブルとなりがちです。そのため、当事者間の合意内容を確認し、双方の認識が合致していることを確かめるために「契約書」を作成することが大切なのです。
② 当事者間の紛争を未然に防止・回避するため
例えば、工事にミスがあることが判明した場合、「契約書」で取り決めたルール(例:工事のやり直し、損害賠償など)にそって処理することにより当事者間の紛争を未然に防止し、回避することが可能となります。
そのため、契約上のトラブルがあったとしても、契約書にもとづいて当事者間で解決ができる場合が多いのです。
③ 紛争となった場合の証拠にするため
例えば、工事内容が注文者の認識とは異なるが、工事を請け負った業者は注文どおりに工事したと考えている場合、当事者間で紛争となることがあります。そうした場合、発注した工事内容がどのようなものであり、完成した工事がそのとおりであるかが争点となりますが、「契約書」で取り決めた工事内容がどうであったかが重要な証拠となります。
仮に、裁判となった場合は、その「契約書」の取り決めに照らして、発注どおりに工事が完成しているか、どちらの言い分が正しいのかがが判断されることとなりますので、紛争解決の基準・証拠となるのです。
契約自由の原則と契約(書)の法的効力
契約の基本的な考え方として、契約自由の原則(私的自治の原則)があります。
契約自由の原則は、個人間で締結される契約には国家が干渉せず、個人の意思を尊重するという原則をいいます。
具体的には、契約を締結すること自体や、誰と契約するか、どのような契約内容とするかを個人が自由に決定できるというというものです。
先に解説したとおり、契約の成立には当事者双方の意思表示が合致することが必要ですので、一方当事者だけが契約の成立を望んでいても、もう一方の当事者がそれを拒絶すれば、契約は成立しません。
そして、両当事者が自分の意思で合意して契約が成立した以上は、契約の法的効力として、両当事者にそれぞれ権利と義務が発生します。
例えば、先ほどのお弁当の売買契約を例にとると、コンビニ(売主)にはお弁当の代金を請求する権利とお弁当を引き渡す義務が生じる一方、消費者(買主)にはお弁当の引渡しを求める権利とその代金を支払う義務が生じます。このように契約上の義務を守ることが契約上のルールなのです。
そして、契約当事者が契約上の義務を守らない場合は、その契約書又は法律に基づいて一定のペナルティ(損害賠償など)があります。これによって社会秩序が維持されているのです。
もっとも、一旦契約すればいつまでも契約に拘束されるのではなく、契約書や法律上の定めによって、一定の事由が生じた場合に、当事者の意思によって契約関係を解消することもできます(一般的に契約解除、解約などといいます)。
契約書作成・締結のポイント
最近ではインターネット上で契約書の雛形・サンプルなどを入手することができ、それを加工してオリジナルの契約書を作成して契約を締結するケースも多いです。また、契約の相手方が提示してきた契約書にサインして契約を締結するケースもあります。
いずれのケースもそのこと自体を否定するものではありませんが、契約書を作成したり締結したりするうえで、6つほどポイントがありますので、以下でご案内します。
① 事業(取引)内容にそって、リスクを意識する
契約書は、当事者が特定の取引を行う上で必要な権利義務を発生させるためのものです。そして、契約書は、相手方、契約に至る事情や背景、取引内容などが異なるものですので、ほぼ全ての契約書がオリジナルといえます。
したがって、契約書を作成・締結する場合は、実際の事業(取引)内容を十分理解・イメージしたうえで、その事業ではどういうリスクが生じる可能性があるのかを想像して、どのような契約上の手当てをしておくべきかを検討する必要があります。
例えば、売買契約であれば、売主側は代金を回収できない、あるいは不良品とのクレームを受けるなどのリスクが想定されますし、買主側は商品を引き渡してくれない、あるいは想定外の不良があるのに十分な対応をしてくれないなどのリスクが想定されますので、いずれも自分が不利益を被らないような契約上の手当てをしておくべきです。
② 権利義務とその当事者を明確に記載する
契約書作成・締結にあたって、重要なポイントの1つが権利と義務の内容を明確にするということです。契約書によって契約する意義は、自分の権利義務と相手方の権利義務を明記した書類であり、契約上のトラブルの防止や、トラブル発生時の解決の基準・ルールとなる点にあります。
したがって、契約条項を作成する場合には、どのような権利や義務を意味するのか、第三者が読んでも分かるほど明確なものかを意識することが重要です。その際、契約上の文言などについて、「別の意味で解釈される余地がないか」、「曖昧または抽象的な記載がないか」などに注意するとよいでしょう。
また、権利義務を明確に記載することとあわせて、その主体を明確にすること、すなわち、「誰の、誰に対する権利または義務であるのか」を明記することも重要です。
具体的には、「A(買主)は、B(売主)に対して、〇〇を請求できる」のように記載することを意識するとよいでしょう。
③ 関連法令に抵触していないか、民法などとの関係はどうか
先に解説したとおり、契約には「契約自由の原則」が適用され、個人間で締結される契約には国家が干渉せず、個人の意思を尊重されますので、契約条項は自由に決定できます。
ただし、契約内容が公序良俗に反したり、特定の法令(例:借地借家法、労働者派遣法など)に抵触したりする場合、契約自体が無効となる可能性がありますので、関連法令に抵触していないかを事前にチェックする必要があります。
また、例えば、売買契約などの典型的な契約類型については、民法で一般的なルールが定められており、売買契約書上にあえてそのままのルールを確認的に記載するケースや全く記載しないケース(これらの場合は民法が適用)、又は民法とは異なるルールを記載するケース(この場合は契約条項が民法に優先して適用)など、様々なケースがありますので、締結しようとする契約条項と民法などの法令との関係を意識する必要があります。
④ 著しく自社に不利益な条項はないか
取引関係は対等であることが望ましいため、契約条項も一方に著しく不利益(または有利)なものは取引関係を悪化させるだけでなく、関係法令(例:独占禁止法など)に抵触する場合もあります。
そのため、自社で契約書を作成する場合は、自社に多少有利になるように作成することは問題ありませんが、著しく自社だけが有利(相手に不利益)になるような契約条項は避けるべきです。
また、相手が作成した契約書をチェックする場合は、そのまま鵜呑みにするのではなく、例えば、トラブルがあった場合の責任が著しく自社に不利になっていないかなどの視点で確認することをおすすめします。
⑤ 契約書の雛形・サンプルはそのまま使用しない
契約書の雛形・サンプルを使用しても構いませんが、契約条項を十分に確認せずにそのまま使用することは避けてください。上記①で解説したとおり、雛形などと似たような取引であっても、取引や事業内容が全く同じということはなく、「ほぼ全ての契約書がオリジナル」と考えるべきです。
そのため、締結しようとしている契約内容に照らして、「雛形・サンプルの条項で必要十分か、過不足はないか」、「想定していない、又は実現不可能な条項はないか」などを検討し、実際の取引に合致するようにカスタマイズすることが大切です。
⑥ 弁護士などの専門家に事前にチェックしてもらう(リーガルチェックの必要性)
上記①から⑤のポイントを網羅しているか、弁護士などの専門家に事前に相談し、リーガルチェックしてもらうことが有益です。特に、法令への抵触がないか、民法よりも自社に不利な条項を相手から押し付けられていないかなど、弁護士などの専門家でなければチェックできない事項や、関連判例のリサーチが必要な場合もあります。
また、取引内容から想定される契約上のトラブルへの対応方法が契約書に記載されていないような場合、実際にトラブルが発生すると解決が困難となるようなケースもあります。
したがって、特に重要な取引や、初めてそのような取引を行う場合は、弁護士に相談して、リーガルチェックを受けることを強くおすすめします。
なお、当事者の弁護士は、これまで数多くの業種の企業の皆様から契約書のチェックや、契約上のトラブルのご相談をいただいており、どのような点が問題となり得るかを熟知しておりますので、お気軽にご相談ください。
契約書の一般的な内容・形式、作成者
次に、契約書の一般的な内容・形式をご紹介するとともに、契約書は当事者のどちらが作成すべきかについて解説します。
内容
1,表題(タイトル)
契約内容を端的に表現します。契約内容に応じて、例えば「請負契約書」、「委任契約書」などと記載しますが、「請負契約」、「委任契約」の法律上のルールにそったものであるかを確認する必要があります。
なお、本体の契約書に付属するものとして「覚書」や「合意書」といった表題とすることもありますが、法定効力がある点では本体の契約書と異なりません。
2,前文
契約書の表題の後に、前文を入れます。前文は、誰と誰がどのような内容の契約を締結しようとしているかを簡潔に記載します。
3,目的
契約書作成の目的又は契約の目的を記載します。
例えば、「契約の目的を達しない場合に契約を解除できる」ことを定めた場合には、 何が契約の目的なのかが重要な意味を持つため、目的を明確に定めておくことが重要です。
4,権利義務の内容
上記の「契約書作成・締結のポイント」①②で解説したとおり、当事者間の「権利義務」について、想定する取引・事業内容にそって、意図する法律効果をイメージし、リスクも想定しながら作成します。その際、契約条項の文言は、第三者が読んでも分かるほど明確となっていることが重要です。
5,条件、期限、存続期間
当事者間で合意した条件や期限、契約期間などを明確にします。条件が満たされなかった場合に、契約をどう処理するのか、契約期間経過時に更新があるかどうかなども記載します。
6,損害賠償
契約当事者の一方の契約違反行為により他方に損害が生じた場合の損害賠償責任について定めます。
7,解除
契約当事者の一方の契約違反行為があった場合に、他方が契約関係を解消できることを定めます。
8,反社会的勢力の排除(反社条項)
契約当事者のいずれも反社会的勢力でないことを確約します。
9,協議事項
契約書に記載のない事項や疑義が生じた場合などに、契約当事者間で協議して解決することを定めます。
10,準拠法・合意管轄
契約当事者間でその契約に関連して紛争が発生した場合に、準拠する法律は何か(準拠法)、どこの裁判所で解決するのか(合意管轄)を定めます。
11,後文
契約書の作成通数、原本の所持・保管者などを記載します。
12,契約書作成日
原則として、実際に契約書が作成された年月日を記載します。
13,当事者の署名捺印・記名押印
法人の場合には、代表者の署名または記名と押印が必要です。
形式
1,印紙
印紙税法上の課税文書かどうかを確認し、印紙税の対象であれば印紙を貼ります。
<参考>印紙税額一覧表(国税庁ホームペー)ジhttps://www.nta.go.jp/publication/pamph/inshi/pdf/zeigaku_ichiran_r0204.pdf
2,割印
重要な契約書の場合には、割印を押印することがあります。契約書は通常2通以上作成されますので、それらが同一の契約書であり、後日相手によって偽造されること防止する目的で押印されます。自社と相手方の契約書にまたがるように押印します。
3,契印
契約書が複数のページにまたがる場合に、契印が押印されます。
契印は、契約書の一部が相手によって差し替えられたりして偽造されることを防止する目的で行われます。
ホチキス(ステープラー)止めの場合は、全てのページの見開き部分に両ページにまたがるように押印します。製本された契約書の場合は、製本テープと書類の紙の間にまたがるように押印します。
どちらが契約書を作成するのか(すべきか)
「契約を締結する場合、どちらが契約書を作成するのか(すべきか)」というご相談をよくいただきます。
当事務所の弁護士は、「どちらが契約書を作成するというルールはないが、自社に有利に取引を進めるためには自社が作成すべき」と考えています。
まず、自社の商品を販売したり、サービスを提供したりする場合は、自社にて契約書を作成したほうがよいです。なぜなら、自社の商品やサービスのことは自社が熟知していますし、発生しそうなトラブルも過去の経験などからある程度予測できるため、想定外の契約トラブルや自社への不利益の発生を防止できるからです。
また、自社にとって経済的利益が大きいなど重要な取引についても、自社にて契約書を作成すべきです。なぜなら、契約書の作成を相手も任せっきりにした場合、相手に有利な条項(自社に不利な条項)を入れられる場合が多く、そのことに気づかなかったり、相手が条項の変更に応じなかったりした結果、自社に想定外の不利益が生じることもあるためです。
したがって、自社の商品やサービスに関する契約書は、顧問弁護士などと相談しながら雛形を作成しておき、実際の取引やトラブルの発生状況・内容などに応じてブラッシュアップしていくことが理想的です。
また、重要な契約書についても、顧問弁護士などに相談してリーガルチェックを受け、自社に不利な条項がないかなどを精査してもらうことが必要です。
当事務所における契約書作成・リーガルチェックのご案内
上記で解説したとおり、契約書を取り交わすにあたり、自社に有利に取引を進め、自社に生じる不利益を未然に防止するためには、事前に弁護士に相談することを強くおすすめします。
当事務所の弁護士は、これまで多くの業種・企業の契約書作成・リーガルチェックに携わっており、どのようなリスクが想定されるか、相手方とのバランスで契約をどのように修正すべきかなど、適格なアドバイスをいたしますので、お気軽にご相談ください。
なお、当事務所では、契約書作成・リーガルチェックにあたっては、ご依頼者である企業様の事業内容や経営方針などを、日頃の法律相談などを通じて理解することが最善の策と考えておりますので、下記の<法律顧問プラン>を締結いただくことをおすすめしています。それによって、その取引だけではなく、将来的にも継続的にトラブルを予防する効果が期待できます。
このプランの「ご相談・作業時間」内であれば、契約書のリーガルチェックは「無料」です。また、新規の契約書作成も難易度に応じて通常11万円(税込)からお受けしていますが、その場合もプランの「顧問先割引」により安価にお受けしておりますので、ぜひご検討・ご相談ください。
なお、初回1時間無料にてご相談をお受けしておりますので、お気軽にご連絡ください(お電話・メールでの具体的なご相談はお受けしておりませんので、ご了承ください(基本的に対面でのご相談となります))。
法律顧問プラン
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ご相談・作業時間 (月)※1、2 |
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※1 「ご相談・作業時間」を超過した場合、通常の企業向けご相談料(11,000円/30分毎)をいただきます。
※2 ご相談に関して、弁護士が書面作成するなどの「作業時間」を含みます。
※3 従業員様のご家族の相続のご相談など、会社を離れた個人的なご相談に限ります。例えば、従業員様からの労務に関する相談など、会社と従業員様の利益が相反するようなご相談はお受けできませんので、予めご了承ください。
※4 従業員様からご相談を受け、受任した案件についても同様に着手金・報酬金を割引します。