遺言書の有無で変わる相続手続きの流れ

相続手続きは、遺言書の有無によって異なり、手続きの方法や遺産の分割方法が違います。遺言書がある場合は、遺言者の意思に従って遺産分割が行われますが、無い場合は、相続人同士の協議により分割方法が決定されます。また、専門家である弁護士や司法書士の支援が必要な場合も異なります。

遺言書の有無による相続手続きの違いを理解することで、遺産分割に関するトラブルに対処しやすくなります。

以下では、遺言書がある場合とない場合での相続手続きの流れや違いを詳しく説明します。

遺言書がある場合のおおまかな手続きの流れ

遺言書がある場合の相続手続きは、基本的に遺言書の内容に従って進められます。遺言執行者がいる場合のケースでいえば、遺言執行者が遺言書の存在を確認し、遺言書の内容を相続人に報告します。

次に、遺言執行者は遺産の調査を行ったうえで、相続財産の目録を作成して相続人に交付し 遺産分割に関する手続きを進めます。

遺言書が公正証書(公証役場で作成された遺言書)である場合は、遺言執行者が遺言書の内容に従って特段の手続きを行うことなく、遺産分割の手続きを行います。

遺言書が自筆証書(自分で書いた遺言書)である場合は、遺言執行者が、家庭裁判所に遺言書を提出して検認してもらった後、遺言書の内容に従って遺産分割を行います(但し、自筆証書遺言が法務局(遺言書保管所)に預けられていた場合、検認は不要です)。

遺言書がある場合は、基本的に遺言者の意思が尊重され、遺産の分割が円滑に進められます。ただし、遺言書の内容が、遺留分(法律上、兄弟姉妹を除く法定相続人に最低限保障される遺産の取り分)を侵害している場合、その相続人から遺留分を侵害している金額を支払うよう他の相続人に請求されるケースがあります。

そのような場合は、当事務所の弁護士にお気軽にお問い合わせください。なお、遺留分については、別のページで詳しく解説していますので、ご参照ください。

遺言書がない場合のおおまかな手続きの流れ

遺言書がない場合の相続手続きは、相続人同士の協議によって遺産分割が行われます。まず、相続人が誰であるかを確定し、遺産の調査を行った後、相続人全員が同意の上で遺産分割協議書を作成し、遺産の分割方法が決定されます。分割方法に定めはなく、相続人間の協議で自由に決定できます。

そのため、自分の有利に相続を進めたいと思う相続人がいる場合は、相続人同士の利害対立が生じたり、元々相続人間で仲が良くない場合など、話し合いが円滑に進まないことも多々あります。そのような場合は、当事務所の弁護士にお気軽にお問い合わせください。

弁護士に相談すべきケース

弁護士に相談すべきケースは、例えば、複雑な遺産分割が求められるケース、相続人間で話がまとまらないケース、遺留分を侵害している(またはされている)ケースなどです。

また、遺言書の内容に疑義が生じた際にも、弁護士に相談のうえ、適切な手続きにより、相続の問題を円滑に解決していくことが重要です。

複雑な遺産分割や相続人間で話がまとまらない場合

複雑な遺産分割が必要となる例として、不動産や事業を含む財産がある場合があげられます。不動産についていえば、土地そのものを分割するのか、土地を売却して相続人間で金銭を分割するのか、誰か1人が土地を相続してその相続人が他の相続人に代わりに金銭を支払うのか、名義だけ共有にするのかなど、分割方法も様々です。

また、亡くなられた方が会社を経営していたような場合、どの財産を会社が引き継ぎ、または相続人が相続するのかなど、非常に難しい問題があります。   

また、別のケースとして、相続人同士の意見が食い違ったり、元々不仲で話もまともにできないような場合など、一筋縄ではいかないケースもあります。

さらに、相続人が他の相続人の遺留分を侵害している(またはされている)ケースがあります。特に、相続人が他の相続人の遺留分を侵害しているからその分を支払えと請求された場合や、相続人であるのに全く相続財産を取得できず、自分の遺留分が侵害されているケースなどは、すみやかに弁護士に相談すべきケースです。

このような場合、当事務所の弁護士は、事案内容に応じて、適切な解決策を提案し、円滑な話し合いの場を設ける役割を果たします。

遺言書の内容に疑義がある場合

遺言書の内容に疑義が生じた場合も、弁護士に相談することをおすすめします。遺言書の内容が曖昧であったり、遺言者の意思が不明確である場合、適切な遺産分割が困難となります。また、遺言書の形式や開封の手続きが正しいかどうかなども弁護士に確認したほうがよい場合があります。

当事務所の弁護士は、遺言書に関する法律や手続きを熟知しておりますので、遺言書の有効性や、相続人の皆さんが取るべき行動などについて、適切なアドバイスを行うことで、円滑な問題解決が期待できます。

もし、遺言書が無効と考えられる場合や、遺言内容が相続人の遺留分を侵害している(されている)場合などは、訴訟も含めた紛争化が想定されるため、できるだけ早く当事務所の弁護士にご相談ください。

遺留分でもめないためにできること

例えば、長男・次男の2人が父の相続人となるようなケースで、その父が遺言書で「すべての財産を長男〇〇に相続させる」として亡くなった場合、次男には法律上、遺留分(法律上、兄弟姉妹を除く法定相続人に最低限保障される遺産の取り分)が認められています。

このケースでは、次男には遺産の1/4が遺留分として保障されており、遺言書は次男の遺留分を侵害しているため、次男が長男に1/4を支払うよう請求した場合、長男はこれを支払わなければなりません。また、長男がこれを支払わない場合、次男は不服として裁判所に調停や裁判を申し立てることもあり、不幸にも兄弟間で紛争が生じることがあります。

そこで、このような相続人間の紛争を未然に防ぐために、例えば、遺言書で遺産の1/4に相当する財産を次男にも相続させたり、あるいは、父が長男、次男と協議のうえ、次男の納得が得られれば、家庭裁判所の許可を受けて、父の生前に次男に遺留分を放棄してもらう方法があります。そのいずれであっても、専門的な知識や手続きが必要となることから、当事務所の弁護士にご相談ください。

一方で、遺産分割協議が成立した場合は、相続人全員が合意したものですので、その後に遺留分を主張することはできないため、遺留分侵害という問題は生じません。但し、先のケースでいえば、次男が遺産分割協議で1/4未満の財産しか取得できず、納得がいっていないような場合は、騙されたなどといって遺産分割協議のやり直しを求めるようなことも考えられます。

そのため、遺産分割協議においても、後日の紛争化を避けるためにも、弁護士に相談しながら進めることをおすすめします。

遺産分割協議のポイント

遺産分割協議は、遺産を相続人間で分割する手続きですが、普段から仲のよい親族などであればもめることは少ないと思いますが、仲が悪かったり、利害が対立しているような場合であれば、十分留意して行う必要があります。

また、遺産分割協議後に、その進め方や内容に不満を持った一部の相続人からやり直しを求められるようなこともあります。

以下では、円滑に遺産分割協議を進め、後日もめたりしないよう、いくつかのポイントをご案内します。

遺産分割協議のポイントと注意事項

遺産分割協議を円滑かつ適切に行うための主なポイントと注意すべき事項は、次のとおりです。

① 必ず相続人全員で行うこと

相続人全員が合意しなければ、遺産分割協議は成立しませんので、必ず相続人全員で話し合うようにします。

相続人が誰かが明らかな場合は問題ありませんが、相続人の範囲が不明確な場合(例:かなり遠い親族も相続人に含まれるような場合)は注意が必要ですので、先に相続人を確定する必要があります。

② 相続人全員の意見を尊重すること

遺産分割協議は全員で行うだけでなく、その内容に全員が合意しなれば成立しません。そのため、相続人同士が互いの意見を尊重し、公平に分割できるように協議することが重要です。

③ 未成年者や認知症の方がいる場合

未成年者が相続人に含まれる場合は、その父母が法定代理人として協議に参加しますが、その父母も相続人である場合、父母と子である未成年者の利益が相反してしまうため、裁判所へ特別代理人の選任を申立てる必要があります。このような場合は、弁護士にご相談することをおすすめします。

また、相続人の中に認知症の方がいる場合(その疑いがある場合も含めて)、その症状の程度によっては意思能力がないとされる場合があり、そのような状態で遺産分割協議に参加した場合、後日、遺産分割協議が無効とされることがあります。そのような場合、裁判所に後見人選任の申立てを行う必要がありますので、このような場合も、弁護士にご相談することをおすすめします。

④ どのような遺産があるかをきちんと調査・確認すること

公平に遺産を分割し、後日紛争化しないように、どのような遺産があるかをきちんと調査・確認することも重要です。主な遺産としては、不動産、預貯金、有価証券、債権・債務、貸金庫内の動産類などですが、調査が困難な場合は、弁護士に相談するとよいでしょう。また、特に不動産については、その評価をめぐり相続人間で意見が対立することもありますので、そのような場合も、弁護士に相談することをおすすめします。

なお、遺産分割協議書の作成後に、そこに記載されていない遺産の存在が判明することがありますので、そのような場合の分割方法も定めておくことが一般的です(例:長男が全て取得するなど)。

⑤ 「誰が」、「どの財産を」、「どれだけ取得するか」を明確にすること

不動産や預貯金などの遺産について、どの相続人が、どの遺産を、どれだけ取得するのかを明確にして、遺産分割協議書に記載する必要があります。

例えば、土地であれば、長男が1/2を取得し、次男・三男がそれぞれ1/4ずつ取得すると明確にし、それに基づいてその土地の登記が行われます。

その際、遺産分割協議書には、不動産であれば、所在地や面積など、登記簿の通りに記載したり、預貯金であれば、銀行名・支店名・預金の種類・口座番号なども細かく記載して、どの遺産かを特定して、後日紛争化しないように留意します。

⑥ まとまらない場合は強引に進めずに、専門家に相談すること

遺産分割協議は全員が合意しなれば成立しませんが、利害対立が激しい場合や、協議に前向きに参加しない方がいる場合などは、強引に進めてしまうと、後日遺産分割協議は無効であるなどと主張され、紛争化することもあります。

このような場合、弁護士などの専門家に相談し、遺産分割に関するアドバイスや手続きの支援を受けることをおすすめします。

また、協議ではまとまらないと考えられる場合は、裁判所に調停を申立て、中立的な立場で遺産分割をまとめてもらう方法もありますので、お困りの場合は、当事務所の弁護士にご相談ください。

遺言書の有無で変わる相続手続きのまとめ

遺言書がある場合は、遺言者の意思に従って遺産分割が行われ、遺産分割協議は必要ありません。この場合、遺言者の意思が相続人に明確に伝わり、相続人間のトラブルを防止につながりますが、遺言で相続人の遺留分を侵害している場合は、相続人間で紛争化することがあるため、遺言内容をどのようにするかは慎重に検討することが求められます。また、遺言内容に疑義がある場合もあります。

一方、遺言書がない場合は、相続人全員の協議・合意によって遺産分割が行われます。そのため、遺留分の問題は生じませんが、遺産に不動産などがあり分割方法が複雑な場合や、利害対立が激しい場合などは、遺産分割協議が遅々として進まないようなこともあります。

遺言の内容、遺産分割など相続に関してお悩みの場合は、ぜひ当事務所の弁護士ご相談ください。

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